「CS担当だけにカスタマーサクセスを任せる時代を終わらせよう」と語る、株式会社才流 高橋 歩氏インタビュー
#インタビュー記事
2024年6月4日
株式会社才流 高橋 歩氏プロフィール
ソフトバンク・テクノロジーでWebマーケティング事業の立ち上げ後、楽天にて分析データに基づいた意思決定やWebサイト改善を先導。その後スタートアップでカスタマーサクセス・マーケティング・営業の各領域を担う。才流では、カスタマーサクセスの理念と経験を背景にコンサルタントとして活動中。
Q.高橋さんの経歴を教えてください
新卒でソフトバンク・テクノロジーに入りました。そこで取り扱ったのが、今で言うところのAdobe Analytics(アクセス解析ツール)です。私はそのサービスが日本に進出するときの、代理販売事業の責任者を担いました。
当時はまだアクセス解析という文化がほとんどない中で、初めは「アクセス解析はなぜ大事なのか」というところからお客様に啓蒙していくという活動をする必要がありました。また、せっかく導入をいただいても、活用できずに成果があげられないお客様もいらっしゃいました。こういった困りごとをひとつずつ解決すべく、プリセールス、導入・活用支援、トレーニングやコンサルティングまで、まさに顧客の成功を実現するための活動をおこないました。
その後、自分でもアクセス解析を活用して事業成果を上げる部分に携わりたいと思い、当時Adobe Analyticsを日本で一番利用していた楽天に転職しました。アクセス解析やサイト改善の責任者として、事業部の責任者とデータを基にした対話を重ね、意思決定の支援をしたほか、社内の部署間でバラバラだったデータや指標を統一し、データドリブンなサイト運営を推進する取り組みも推進しました。
そんな中、WebサイトのA/Bテストを各事業部でできる仕組みを作って展開したところ、事業の成果を上げてくる部署とそうではない部署があったのです。それぞれの違いについて調べてみると、最終的に担当者のやる気の有無が成果に影響を与えているということに気がつきました。
そこで、担当者のやる気に依存しない仕組み作りが必要だ」と思い、当時A/Bテストのプロダクトを作っていたKaizen Platformへ転職をしました。
Q.高橋さんの "カスタマーサクセス”との出会いを教えてください。
Kaizen Platformは当時10人ぐらいの規模で、私もプロダクトやサービスの設計、営業企画、代理店開拓などのさまざまな仕事をしていました。そんな中、契約しているにも関わらずサービスの利用が進まないお客様が散見されるようになってきました。もっとお客様側への支援を手厚くしていかないといけないと思い、まずは1人で大手企業への導入支援活動をはじめました。その活動で成果が出たので、お客様の成功を支援する専任の組織を作っていくという仕事をやっていきました。
当時、私はカスタマーサクセスという言葉を知らなかったのですが、アメリカから来たKaizen Platformの役員から、「君がやっている仕事はカスタマーサクセスだよ」と言われたのです。これがカスタマーサクセスと出会うきっかけとなりました。まだ英語版の「青本」すら出版されていない、2014年のことです。カスタマーサクセスについて英語で書かれたWebサイトを頑張って読みながら、これまで私がやってきた仕事がカスタマーサクセスと言う言葉でまとまったと感じたのを覚えています。
楽天にいた頃までは、データがあれば人は意思決定できると考えていました。しかし、そうではなく、より人に寄り添って意思決定や活動を支援しなくてはならないと気がついたのです。Kaizen Platformでも楽天の中で事業部の責任者に対してやってきたのと同じことを社外からお客様に対してやっていけば、成果をあげてくださるということもわかりました。「カスタマーサクセスのような人がもっと活躍できる世界が広がっていけば、もっとみんながハッピーになれる」「カスタマーサクセスをやっている人たちが、より活躍できる世界を作っていきたい!」と思うようになり、キャリアの軸をカスタマーサクセスに移していきました。
Q.では、なぜいま才流に在籍しているのですか?
お客様がサクセスできるかは、受注時点までの要因に左右されることが多いからです。お客様の事前期待は、マーケティングの段階でどのような情報を得たか、営業からどのような提案を受けたかで決まってしまうので、その後カスタマーサクセスがどんなに頑張ってもすべてのお客様を成功に導くことは困難です。本当の意味でカスタマーサクセスの成果を作っていくためには、手前にあるマーケティング・営業のプロセスやプロダクト自体も改善していかないといけません。真のカスタマーサクセスを目指すなら、営業・マーケティングも含めた顧客接点全体を改善していく必要性を感じました。
具体的な例を挙げると、「マーケティングで成果を上げてリードを獲得したが、営業がうまくいかない」というケースでは、営業プロセスの支援が必要です。同様に、営業が成功しても、その後にお客様が解約してしまっては意味がありません。
ですから、マーケティング、営業、カスタマーサクセスの全体像を俯瞰できる状態を作る必要があるんです。全体が見えることで各部門の情報を円滑に引き継げるようになり、カスタマーサクセスで得られた知見を営業やマーケティングにフィードバックし、改善につなげることもできます。
BtoBマーケティングや法人営業の支援が強いコンサルティング会社の才流であれば、この課題に取り組めると思い、入社しました。今は、お客様の事業を成長させるために必要なことを全方位で支援したいという思いで、コンサルタントとして活動しています。
Q.高橋さんにとってカスタマーサクセスとは何ですか?
カスタマーサクセスは、私にとって「より良い未来を作る手段」なんです。つまり、お客様と私たち、両者にとって理想的な未来を実現するための大切なアプローチだと考えています。
振り返ってみると、これまでのビジネスというのは、どちらかというと「自社の利益をいかに追求するか」という視点が中心でした。しかし、時代の変化とともに、そのやり方では立ち行かなくなってきています。今は、お客様に本当の意味で価値を提供し、それを長期的に理解・実感していただけなければ、事業として成功するのは難しい。だからこそ、私たちにはカスタマーサクセスを体現することが求められているんです。
まずは、自社サービスの価値を正しく伝えること。そして、お客様に私たちを選んでいただけたなら、その期待に全力で応えていく。そういう活動を一つ一つ積み重ねることで、お客様の成功と同時に自社の成長も実現できると考えています。
Q.カスタマーサクセスの良いところを教えていただけますか?
まずはお客様の成功と自社の事業成長の両方を担えるところです。難しいですが、やりがいが感じられます。
例えば、顧客の視点だけで業務を考えてしまうと、お客様にどんなサービスをするのかという点ばかりに意識が向いてしまいます。どうお客様に対してコミュニケーションをとるかとか、どんなタイミングでお客様と話をするとといいかみたいな話にフォーカスされがちです。
一方で、自社の目標をいかに達成するのかという視点で、NRR(売上維持率)のような指標のみで活動を進めようとすると、どうすればアップセルやクロスセルができるかということにフォーカスされがちです。
なので、顧客の成功ばかり考えていてボランティアになってしまうか、自社のアップセル/クロスセルに偏ってしまってお客様をないがしろにしてしまうか。この2パターンのどちらかに大体寄ってしまっているんですよね。ですが本来は、これを両方ともできる状態を作れることが、カスタマーサクセスのいいところなんです。
その点を両方できないと事業としてやっていく意味がありません。これらの両方を設計することができ、運用することができるのがカスタマーサクセスの良いところだと考えています。
また、お客様との接点を一番多く持つことができることも、カスタマーサクセスの良いところです。
お客様のことを知り、解像度を高めながら、お客様にとってより良い製品・サービスを作っていく、お客様により良いコミュニケーションを取っていくという点を考えることができることによって、アップセル/クロスセルをしていくだけでなく、自分たちでプロダクトを良くしていけるという点で、先述のよりよい未来を作っていくことに繋がっていくのではないかと思います。
この考え方はカスタマーサクセスの担当だけではなく、会社の全員が持つべきです。ビジネスが大きく変わっていく中で、「お客様により選ばれ続ける状態を作っていくことが結果的に事業に繋がるんだ」という考えをみんなが持つことがすごく大事です。
そのため、カスタマーサクセスの考え方を持って活動していくことで、売り手も買い手もいい世界になっていく、自分たちが目指していく未来を作っていけるという点がポジティブなところです。
Q.カスタマーサクセスにおいて、「活躍できる人」のイメージはありますか?
カスタマーサクセスに必要な素質は3点あります。1点目は、やはり人と向き合っていくことに興味が持てることです。お客様と向き合って、お客様が持っている課題や想いの解像度を上げていきながら、それに対してどう解決していくのかを、考えていく必要があります。
よく技術的問題と適応課題と言ったりしますが、既にある知識や手段の中だけで解決するのではなく、人との関係の中で生じている課題を解決していくことに抵抗がなく興味が持てる人の方が強いなと感じます。
例えば、お客様に自分たちのサービスを使ってもらうということは、前にやっていた業務内容を変えてもらうということなので、現場で反対にあうこともあります。チェンジマネジメントが必要なときに「それはお客様側の仕事」と割り切ってしまうのか、「一緒に頑張っていきましょう!」と言えるのかの違いはカスタマーサクセスとして大きいと思います。
2点目は巻き込み力があることです。他の仕事も同じかもしれませんが、カスタマーサクセスは自分だけでは何もできません。カスタマーサクセスでは相手にうごいてもらい、興味を持ってもらわなければなりません。社内も社外も巻き込みながら、お客様の成功のために、なにをすべきか?を考える必要があります。なので、人を巻き込んでいきながらチームとして動けることが重要です。
最後に3点目は、自分たちが提供しているプロダクトやサービスに対する愛を持てることだと思います。自社のプロダクトやサービスが、絶対に役に立つ、価値が出るものなんだ、と心から信じていないと、それがお客様の前で出ちゃいますよね。
逆に言うと、自分が愛を持てるプロダクトやサービスを扱える環境を探して身を置くことや、プロダクトやサービスの改善に積極的に関わることで愛を育てていくことも重要です。
Q.カスタマーサクセスのキャリアを目指すメリットは何だと思いますか?
私は「キャリアの中継基地」と表現しているのですが、カスタマーサクセスの役割はこれまでの自身の経験を基に強みを活かした活動がしやすいです。さらに、カスタマーサクセスの業務を通じて、その周辺領域も学ぶことができます。周辺領域を学ぶことで次のステップに進むこともできます。
例えば、カスタマーサクセス活動を通じてお客様からプロダクトの機能に関する要望をたくさんもらって、それをプロダクトチームと連携し改善する経験を積んでいけば、PMやPMMの力がついていきます。
もしくは、お客様とコミュニケーションをとる中で集めてきた情報を整理し、たくさんの方に提供するにはどうしたらいいかを考えていけばマーケティングの力がついていきます。
場合によっては、カスタマーサクセス活動を通じて事業成長を牽引していくことで、CCOやCOOなどのポジションに就いたり、会社の経営に参加することもできるでしょう。
なので、自分が培ってきた経験を基に働きながら、周辺領域に興味を持って、力をつけることで次のキャリアにも繋がるはずです。
Q.現在のCS業界について課題に感じている事はありますか?またその解決方法などあれば教えて下さい。
カスタマーサクセスの認知が広がってきたため、カスタマーサクセスをすること自体が目的になってしまっているケースが見受けられることです。カスタマーサクセスはお客様の課題を解決するための手段であって、目的ではありません。私のキャリアを振り返ってみても、カスタマーサクセスという言葉を知る前からお客様の課題と向き合い、その課題を解決する手段としてカスタマーサクセスと同じような活動をしていました。
問題なのは、どんな課題を解決したいのか、どんな状態になって欲しいのかと言うところの共通認識が作れていない中で、カスタマーサクセスを始めてしまうことです。まずは「どんな課題を解決したいのか」や「何を期待してるのか」を明らかにする必要があります。このようなとき、カスタマーサクセス活動を通じて実現したいことを「カスタマーサクセスという言葉を使わずに表現してみましょう」とアドバイスしています。
このように目的を言語化することで、既存のメンバーでカスタマーサクセス活動を推進しやすくなります。カスタマーサクセス経験者を社外から採用したいという相談をよく受けるのですが、カスタマーサクセスの経験よりも大事なスキルがあるはずです。担当者に求められるスキルは業界経験やプロダクト知識、コミュニケーション力や社内外の巻き込み力と多岐にわたります。「自社にとってのカスタマーサクセスとは何か」を言語化することで、その実現のために適切な人材を見極めることができるようになります。
加えて言えば、カスタマーサクセスの専門性は、MagicSuccessのようなツールを活用したり、我々のようなコンサルタントに頼っていただくこともできると思っています。
Q.CS業界で注目している動きはありますか?
大企業の既存事業で、カスタマーサクセスをどう定着させていくかですね。カスタマーサクセスに取り組む大企業の事例は徐々に増えてきましたが、実際にどう導入していくかについては悩ましい部分が多いのが現状です。
スタートアップのSaaSビジネスが前提となる情報が多い中で、果たして大企業の現状に合ったカスタマーサクセスのあり方とは何なのか。スタートアップとは異なる課題も多いはずです。例えば、カスタマーサクセスの部署を新設したとしても、経験者の採用を進めるのは難しく、社内の他部署からアサインされた人たちを、どう巻き込んでいけばいいのかを考える必要があります。
また、既存の事業モデルにカスタマーサクセスをどう組み込んでいくのか。SaaSのようなサブスクリプション型のビジネスならまだしも、さまざまなビジネスモデルにおいて馴染むカスタマーサクセスのやり方とは何か。そういった具体的な方法論はまだ十分に確立されていません。
私としては、こうした大企業ならではの課題にしっかり向き合って、それぞれの企業に最適なカスタマーサクセスのあり方を模索していく必要があると考えています。型にはまったカスタマーサクセスではなく、各社の文脈に即した実践的なカスタマーサクセスを追求すること。そこに、今ここで取り組むべきカスタマーサクセスの本質があるんじゃないかと。その過程に微力ながら貢献できたら、と思っているところです。
Q.高橋さんのこれからの目標を教えてください!
そろそろ、カスタマーサクセスの担当者だけでカスタマーサクセスに取り組む時代を終わらせていきたいと思っています。
真のカスタマーサクセスを実現するためには、マーケティング・営業・プロダクトなど、すべての顧客接点でカスタマーサクセスを目指すことが大切です。
カスタマーサクセスというフレームワークがあることで、それが目指せるようになりました。今回の記事を読んでくださっている読者の方々とも議論させていただきながら、一緒によりよい未来を創っていけたらと思っています。
ーーー高橋さん、ありがとうございました!
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