「誰かの為に頑張れる人が楽しく働ける世界を実現したい」KOMMONS白塚氏インタビュー

#インタビュー記事

2024年9月9日

白塚湧士氏プロフィール

株式会社ATOMica Platform開発本部 / KOMMONSカンパニーCEO

京都大学 経済学部卒。同年に三井物産株式会社に入社し、ICT事業本部でCS領域への投資業務を担当。大手コールセンターBPO事業者に出向し、B2B, B2Cのカスタマーサクセス/サポートチームのsub MGRを担当。退職後、スタートアップでのカスタマーサクセスチーム立上げを経て、2021年4月に株式会社KOMMONSを創業。1,200名以上が登録する国内最大級のCSコミュニティ「CS KOMMONS」を運営し、累計100件以上のCSコンサル/BPO プロジェクトを推進。2024年8月に事業売却し、株式会社ATOMica Platform開発本部 / KOMMONSカンパニー CEOに就任。

Q.白塚さんの経歴を教えてください。

新卒で三井物産株式会社に入社しました。そこでCX領域(カスタマーサクセスとサポート)に事業投資をする部署を希望し、配属されたのが一番最初のキャリアになっています。

そこで、カスタマーサクセス側ですと、CXツールを提供されているスタートアップ、サポート側では大手コールセンターBPO事業者などに出資を行い、営業支援や戦略策定支援を行っていました。

3年目から現場に出向となり、沖縄のセンターで約70名のチームのサブマネージャーとして、業務を行っていました。

toC向けのサポートチームと、toB向けに有償サポートを提供するプロフェッショナルチームがあり、後者については今で言うカスタマーサクセスに近い業務でしたね。

その現場で感じた課題を解決できるサービスを作りたいと退職を決意し、知り合いのスタートアップで実際にカスタマーサクセス組織の立ち上げに関わった後、2021年4月に株式会社KOMMONSを立ち上げました。

その後、2024年7月に全国37拠点のコワーキングスペースの設計・運営受託を行う株式会社ATOMicaに事業売却。拠点で接点を持った累計35,000名以上の企業や個人に様々なサービスを提供していくPlatform事業の立ち上げを担っています。

Q.貴社の事業内容とCSでの業務内容を教えてください

我々の事業は、toBとtoCに分かれています。

toBでは、カスタマーサクセス業務の整理から代行まで一気通貫で対応できるCS特化のBPOサービスを提供しています。弊社のPMが品質管理を行いながらチームでの支援を行うのですが、事業フェーズに合わせて、対応を柔軟に変えながら、顧客と一緒に成長していける点をご評価いただいています。

BPOの内容には、ハイタッチでの顧客対応や、小規模事業者向けのオンボーディング対応、大企業向けハイタッチCSの事務サポートなどが含まれます。業務の切り出し方が分からないという企業様に対しては、業務フローの設計やデータ基盤の構築から入らせてもらっています。

toCでは、カスタマーサクセスに関する情報提供や他社のCSの方との繋がり作りを通じて、「CSキャリアをサクセスさせる」オンラインコミュニティ『CS KOMMONS』を運営しており、1,200名以上の方にご登録いただいています。

Q.なぜカスタマーサクセスの道に進んだのですか?

コールセンターでの経験から、カスタマーサクセス/サポートの業務をコストとして扱ってしまうと、会社としての投資が難しくなり、現場が疲弊するという課題を感じていました。

カスタマーサクセスやサポートの方は真面目で顧客志向の強い方が多く、業務の整理ができていない状態でも、無理して業務を進めてくださるケースも多いです。一方で、その人のキャリアという観点では、本来定型化して移譲すべき業務を持ち続けているので、市場価値が下がっていってしまい、その後のキャリアの選択肢が狭まってしまうこともあります。

そういった誰かの為に頑張れる方が損をする状態を変える為に、業務効率化や人員補強などの必要な投資をしながら、攻めの施策としてカスタマーサクセスに取り組む企業を増やすことが解決策になると考えました。私は元々人の仕事や働き方に興味があったこともあり、CS×人材領域で企業や個人を支援することが自分のビジョンに繋がると考え、この道に進みました。

最終的には、カスタマーサクセスの領域で自分の強みを活かして、誰かの為になっていると感じながら働ける人が増えると良いと思っています。そのために、カスタマーサクセスをきちんと設計して取り組みを進められる人や企業を増やすことがファーストステップと考え、現在の領域で事業を展開しています。

Q.白塚さんにとってカスタマーサクセスとは何ですか?

前段の現場で感じた課題に対する解決策という意味では、カスタマーサクセスは顧客への提供価値と売上の乖離を極小化できる概念だと考えています。売上を重視するあまり、顧客への提供価値と得られる売上が乖離すると、結果として本質的な価値に繋がらない業務が生まれてしまいます。これをできる限り減らし、皆さんの働きが必ず誰かの価値になる世界を実現できるのがカスタマーサクセスだと思います。この考え方をこれからの経営のスタンダードにしていきたいと思っています。

Q.カスタマーサクセスの素晴らしさ、重要さを教えてください!

カスタマーサクセスの素晴らしさは、働く人が「お客様に価値が届いている!」と感じながら働ける点にあります。これが、個人にとっての大きなメリットの一つだと思います。

提供価値と期待値がずれているために、求められていないところで頑張ってしまったり、成果が出ているはずなのに正しく伝わらず、結果として価値が生まれない状況をなくしていけると、より仕事が楽しくなるし、労働人口が減っていく日本の生産性を高めることにも繋がっていくと考えています。

Q.白塚さんから見てカスタマーサクセスに向いている人はどんな人でしょう?

コミュニティでもよく話題になるのですが、「お客様の為に仕事を頑張れる」という素質は、なかなか後で身につけられるものではなく、カスタマーサクセスに向いている方の特徴と言えると思っています。

もちろん、自分がやり遂げた達成感や、売上が積み上がっていくことに対してアドレナリンが出て頑張れるタイプの人もいますし、そういった方が輝けるポジションもあるので一概には言えませんが。

また、プロダクトによっては顧客のドメインの知識があるかどうかが重要になるケースもあるので、担当プロダクトのドメイン知識も重要なポイントと言えると思います。

Q.白塚さんから見てCS業務を行う上で大切なこと、高いパフォーマンスを発揮しているCSの特徴など教えてください!

多くの方がハイタッチCSを行っていると思いますので、その前提でお話すると、プロジェクトマネジメント(PM)の要素が非常に重要だと思います。

プロジェクトマネジメントの要点は大きく3つだと考えています。一つ目は、顧客が達成したい状態(To-be)と現状(As-is)を整理し、ギャップ(課題)を明確にすること。二つ目は、課題を解決する為に必要な打ち手を整理して、適切な実行計画に落とし込むこと。三つ目は、適切な人員を配置し、顧客を巻き込みながらプロジェクトを進行すること。こうした能力を持つ人は、どの企業でも活躍していると感じています。

Q.白塚さんから見てカスタマーサクセスの大変さ、難しさはどんなところにありますか?

色々あるんですが、一つは、影響を与えられる変数が非常に多いことです。期待される成果が売上や営業利益などの経営指標に近づくほど、その分改善できる変数も増え、選択と集中が求められます。この判断を間違えると、いくら時間を費やしても成果に繋がらないといった状況に陥りがちです。

もう一つの難しさは、カスタマーサクセスの取り組みにおいて、他部署との協力が不可欠なことです。カスタマーサクセスは新しい概念であり、社内で重要性を理解されていないと、他部署の協力を得られず、なかなか取り組みが進まないというケースも多いです。

実際、多くのカスタマーサクセス担当者がこの課題に直面していて、会社全体でカスタマーサクセスを推進できる会社が選ばれるようになってきていると感じます。

Q.最近のCS業界で注目している動きやトレンドはありますか?

1つ目は、私たちもサービスとして提供しているBPO活用です。最近、BPOの事例を知りたいという企業が増えており、問い合わせも増加しています。コミュニティ内でも「やっぱり他社さんもBPOの取り組みを始めていますか?」という質問を多く受けるようになりました。

このトレンドの背景として、カスタマーサクセス組織が解約率だけでなく、既存顧客からの売上や営業利益、コスト面も含めて責任を負うようになってきたことがあります。その結果、現実的に社内で全部対応していると採算が合わないということを皆さんが認識し始めており、アウトソーシングをするか否かの議論から、如何にうまくアウトソースするかの議論に変わってきていると感じます。

また最近話題になっているBPaaSですが、弊社でも各ツールベンダー様と連携し、弊社がツールを担ぎながら、より効率的にBPOを推進していくBPaaSの提供も検討しています。

もう1つは、これから作っていきたいトレンドなんですが、CS人材主導でのDX支援にはポテンシャルがあると考えています。一般的に、SaaS業界ではプロダクトが主でCSが従という関係にあると思うのですが、その逆でCS人材による業務整理・コンサルテーションを行った上で、ノーコード/ローコードツールを使って必要なプロダクトを作っていくという考え方です。実際、CSの方の中でもnotionやスプレッドシートなどを活用して、システムを作っている方を多く見かけます。そういった取り組みをパッケージとして展開していくことで、KOMMONSに登録いただいている1,200名のCS人材の皆さんにDX人材としても活躍いただけると考えています。

Q.現在のCS業界について課題に感じている事はありますか?またその解決方法などで考えてらっしゃる事があれば教えて下さい

前述の話とも関連しますが、CSの業務効率化が進まないことにより、キャリア形成が難しくなる人が出てきているのが課題だと思っています。

例えば、オンボーディング業務だけずっと続けている人がいるとします。最初は良いかもしれませんが、業務の定型化や移譲が進まないと、徐々に実際と市場の平均的なスキルとの間にギャップが生じてきます。

結果として、その人のキャリアを社内外で描けなくなり、個人にとっても会社にとっても不幸な状態になってしまいます。CSが普及しているSaaSスタートアップ業界では、成長志向の強い方が多いと思うので、このような状況が増えていることは、働き手からみたCSキャリアの魅力の低下につながると感じています。

担当顧客をSMBからMMB、エンタープライズへというように社内でステップアップできる教育プランを作るのが理想ですが、そのようなケースはほとんど見かけませんし、今後も一定規模以上の企業しか実現できないのではないかと思います。

このような課題に対してもBPO活用が解決策になると考えています。定型業務をアウトソーシングすることで、正社員の方がより価値のある業務に集中することができ、本人が期待されるステップアップを実現しやすくなります。

3年前には、企業も個人もCS業務の解像度が低かったと思います。

しかし、CS担当の方も増え、ロールモデルが増える中で、「今の業務で自分が成長できているのか不安」というCS担当者の方も増えてきており、これまでのように人力で全ての業務を行うことは難しくなっていると感じています。

KOMMONSとしても、この状況を打開すべく、今後もBPOサービスの提供を行っていきたいと思います。

Q.情報収集に使っている媒体やオススメのツールなどがあれば教えて下さい!

媒体としてはCSNOWさんや、noteなどを見ています。また私の場合はコミュニティからリアルな情報を得られる事も多く、とても助かっています。

ツールとしてはMagicSuccessさんのようなCSツールは今後導入が増えていくだろうと考えています。我々は生産性向上やリソース不足解消の為にBPOサービスを提供していますが、業務の効率化や標準化も重要な課題です。

カスタマーサクセスのメイン業務は顧客への支援なので、それ以外の業務は自動化できるに越したことはありません。しかし実際には自動化しきれないデータ抽出や集計などに時間を使っている組織も多く存在します。

ツールを導入する事で業務の標準化や自動化を行い、対応しきれない業務をBPOを組み合わせて業務設計していくという事が今後はスタンダードになっていくと考えています。

Q.これからの目標を教えてください!

「楽しく仕事をしたいけどスキルや機会が足りない」という方々が、KOMMONSでの情報提供や就業機会の提供を通じてCS / DXスキルを身につけ、将来的に自分のやりたいことができるようになるステップを作っていくことが目標です。

直近3年間で、1,200名のCS人材の方々にご登録いただき、CSの業務設計が出来る方々を集めることができました。そういった方と、ビジネススキルはあっても、活用機会がない地方の方々を中心にチームを組み、より多くの企業にカスタマーサクセスの業務設計・BPO支援を提供していきたいと考えています。

また、地方企業を中心に、CS人材によるDX支援も今後推進していきたいと思っています。

カスタマーサクセスの業務内容は、同じ業務でもラベリングが変わると価値が変わるケースも多いと思います。例えば、CSの仕事では700万円の報酬が、同じことを事業開発でやると900万円、1000万円になることがあります。

個人的にはそのような流動はポジティブだと思っていて、そのキャリアパスが見えることによって、700万円でも次のステップを見据えてCSをやりたいという人が増えるはずです。

そのために、CSを魅力的な職にする努力を続けたいと思います。

KOMMONSを通して、「お客様のために仕事がしたい」という方々の努力が、ちゃんと誰かの価値に繋がっていく世界を実現していきます。

ーーー白塚さん、ありがとうございました!

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